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1枚の写真⑤

 夕刻次から次とお客様が訪れた。俺は龍汰を連れてくる。初めてみる大勢の大人達。少し震えている。頭を撫でてやるとキュンキュンキュンと甘えてきた。
「うちの長男龍汰です。龍生の龍と俺の汰をとりました」俺が言った。
「可愛いな。抱かせろよ」大工の仲間さんが言う。
龍太は大人しく仲間さんに抱かれていた。
「俺にも抱かせろよ」三郎が言う。
仲間さんから三郎に渡される。こうして龍汰はおもちゃのようにみんなに抱かれていた。クーンクーンと甘えている。そして予定通り人前式は始まった。俺達は衣装に着替える。用意したのは青いTシャツと白のチノパン。Tシャツには小さな男の子2人がキスしている柄がプリントされている。
「ただいまより橋詰 隼、鹿島龍生の人前式を始めます。皆様拍手でお迎えください」
祐一さんが口火を切った。拍手に迎えられる。俺達は堅く手を握り合いながらリビングに入った。ドックンドックンと兄ちゃんの鼓動が伝ってくる。祐一さんがゆっくりと語り始めた。
「龍生と隼汰は幼少の頃親御さんの都合で離ればなれになりました。親父さんは龍生を育てるながらお袋さんに譲った家の残債も払い続けたと聞きました。専業主婦だったお袋さんは直ぐに職を探したようですがシングルマザーに世間は冷たかった様です。パートを掛け持つしかなかったと聞きました」
シーンと場は静まり返った。
「結果貧しい生活を強いられたようです。唯一救われたのは2人とも親御さんの愛情を全身で浴びながら育ったことでしょう。そして最愛の人と巡り会えました。でもその相手が男性でしかも実の兄弟だったのです。かなり悩み苦しんだと思います。2人が出した答えは愛を貫くこと。正々堂々と生きたいと考えた2人はカミングアウトも辞さなかったのです」
祐一さんは兄ちゃんを見る。そして俺を見た。
「そうだよな」
俺と兄ちゃんはコクンと頷いた。
「様々な荒波をを乗り越えた2人が本日皆様の前で永遠の愛を誓います」
祐一さんが声を張り上げた。祐一さんは丸い平板を掌に置いた。その板には”絆”と筆で書いてある。俺はその平板の上に手を置いた。その上に兄ちゃんの手が重ねられる。鼓動が高鳴ってきた。祐一さんと兄ちゃんの視線が交差する。兄ちゃんがゆっくり口を開いた。
「誓いの言葉。俺達2人はこれからどれだけの嵐が吹こうとも2人で力合わせそれを乗り越え明るい家庭を築いていく事をここに誓います。まだまだ若輩ではございますが今後ともご指導の程宜しくお願い申し上げます。鹿島龍生」
「はっ、橋詰隼汰」
俺が名乗った。拍手が沸き起こる。大人しく五月女叔母ちゃんに抱かれていた龍汰もキュンキュンキュンと吠えていた。兄ちゃんと視線が交差する。その眼差しは幸せ色に輝いていた。多分俺の目にも同じような輝きをしてるだろうと思った。
「指輪の交換です」祐一さんが声にする。
兄ちゃんが俺の左手をとった。俺の手は緊張で小刻みに震えている。どうにか左手の薬指に嵌めて貰う。兄ちゃんを見ると優しい眼差しで俺を見ている。俺は左手で兄ちゃんの手を取った。焦るな落ち着け自分に言い聞かせる。指輪を手に取り兄ちゃんの左指に嵌めこんだ。刻印はMeilleur ami (最高の相棒)……世界一の相棒がここに誕生した。結婚証明
書に署名する。兄ちゃん、俺そして2人のおじちゃんが名前を記した。
「では誓いのキッスをお願いします」
祐一さんの声が優しく切なく心に響いた。
「隼汰……」
兄ちゃんの両手が俺の頬を覆った。顔が近づいてくる。兄ちゃんの香りに誘引されるように俺は唇を寄せていった。唇が静かに触れ合う。
接吻 (4)
そして離れた。拍手が沸き起こる。その拍手が大きくなった。
「アンコール、アンコール、アンコール」
俊雄が声を上げる。
「アンコール、アンコール」三郎が声を上げた。凱斗が、上村部長が、坂上社長が…そして叔父さんたちまで手を叩く。キュンキュンキュンと龍汰が吼えた。
「キッスキッス」「キッスキッス」「キッスキッス」「キッスキッス」「キッスキッス」優しい眼差しでみんなが見ている。俺達はまたキスをした。俺の頬に涙が一滴伝う。また盛大な拍手が沸き起こった。
「では乾杯に移りたいと思います。音頭は龍生が勤務する会社の坂上社長お願いします」
「ご指名に預かりました坂上です。最初聞いた時は驚きました。もしかしたら世間では嫌悪感を示す人がいるかも知れません。でも私は大いに応援していきたいと思います。鹿島、隼汰君おめでとう。乾杯」
カチンカチンカチンとグラスが触れ合った。
「おめでとう」
「幸せになれよ」
「頑張れよ」
暖かい声が飛び交った。
「皆様暫しの間ご歓談をお楽しみください」
祐一さんが声にする。カウンターの前に集まり出した。
「凄ぇこれ隼汰が作ったのか?」
橋詰伯父ちゃんが言う。
「龍生は幸せ者だな」
五月女叔父ちゃんが声にした。
「叔母ちゃん達にかなり手伝ってもらいましたから…」俺が言った。あちこちで料理を絶賛してくれる。それだけでも俺は幸せを感じた。インターホンが鳴る。おばちゃん2人が席を立った。
「お待たせしました。ウエディングケーキが届きました」
五月女叔母ちゃんが嬉しそうに言った。
「あっ凄ぇ…嬉しいっす」
兄ちゃんが目を輝かせながら声にした。
「ありがとうございます」
俺の声が弾んでいた。ケーキのてっぺんに2人の男性がキスしている砂糖菓子がが乗せられる。
「この飾りは私達の手作りよ。ねっ」
五月女叔母ちゃんが声にする。橋詰伯母ちゃんが横でニコニコしていた。蝋燭が灯される。リボンのついたナイフを手渡された。
「2人初めての共同作業です」
祐一さんが声を張り上げる。照明が落とされた。蝋燭の光が優しく室内を照らしている。
こうして俺達の人前式は進んでいった。従兄弟達からのDVDレターが紹介される。会社の同僚からの寄せ書きとサイン帳が手渡された。
「皆様実はこの家のリフォームは完成しておりません」
祐一さんの声。視線が祐一さんに集まった。
「龍生と隼汰が結ばれるにはある写真がありました。その写真がこちらです」
あの古ぼけた写真が少し大きくなり見事に複製している。フォトフレームに収められていた。
「この写真を飾り棚の真ん中に収めて貰ってこそ、この家のリフォームは終了します」
俺と兄ちゃんにフォトフレームが手渡される。俺達は飾り棚に置いた。また拍手が沸き起こる。手を叩く音がやけに優しく聞こえた。あちこちで楽しそうに歓談している。ビールを注ぎ合い料理を食べていた。色んなサプライズをして貰った俺達。人前式は幕を下した。
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[ 2015/05/30 22:51 ] 1枚の写真 | TB(-) | CM(0)

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